こんにちは。
LCAコンサルタントの小野あかりです。
昨日、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)がScope3における開示基準を公表しました。
過去にYoutubeで解説動画を投稿したことはありましたが、コラム内ではあまり触れてきませんでしたので、この機会にScope3に関する解説記事を書いていこうと思います。
Youtube動画の方は、親しみやすいように?【ゆっくり解説】形式で作成しております。
もしご興味がありましたら、ぜひ覗いてみてください。
追記:SSBJ開示基準に則った場合のScope3算定に関する解説記事も書きましたので、よろしければ併せてご覧になってください。
既にScope3算定を終えている企業でも、開示基準を満たないケースもあるかも?!といったような解説を行っております。
本コラム記事では、Scope3算定そのものについての解説記事を行っていきます。
ぜひ最後までお付き合いください。
目次
1.はじめに
2.Scopeとは
8.算定に必要な期間
10.おわりに
1.はじめに
近年、地球温暖化対策の重要性がますます高まる中、企業には自社の事業活動における温室効果ガス(GHG)排出量削減への取り組みが強く求められています。
2025年3月5日、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、企業のサステナビリティ情報開示基準を公表しました。
この基準では、企業の脱炭素に関する情報開示が義務付けられ、特に温暖化ガス排出量については、自社拠点(Scope1、Scope2)だけでなく、原料調達から製品の製造、販売、廃棄に至るサプライチェーン全体(Scope3)での算定と開示が求められることになりました。
実際に基準が適用されるのは、2027年3月からとされており、対象は東京証券取引所プライム市場上場企業とされています。
サプライチェーン全体の算定を行う上ではステークホルダーからの情報も必要となってくるため、関係企業はScope3算定を求められる可能性も高くなると言えます。
Scope3算定は、サプライチェーン全体での排出量を把握し、効果的な削減対策を講じる上で不可欠です。
しかし算定範囲の広さやデータ収集の複雑さから、多くの企業にとって大きな課題となっています。
そこで本記事では、
◆ Scope3算定の意義
◆ 川上・川下にいる企業がそれぞれ注意すべきこと
◆ 算定の流れ
◆ 必要な期間
◆ 予算感
までを網羅的に解説します。
SSBJ基準への対応を検討している企業の皆様にとって、Scope3対応を検討している企業の皆様にとって、Scope3を理解し、具体的な行動に移るための一助となれば幸いです。
2.Scopeとは
Scopeとは、事業活動における温室効果ガス(GHG)排出量を算定・報告する際の区分です。
GHGプロトコルという国際的な基準で定められており、排出源の範囲によってScope1、Scope2、Scope3の3つに分類されます。
Scope1 | 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス) |
Scope2 | 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出 |
Scope3 | Scope1、Scope2以外の、サプライチェーン全体の事業活動 原材料調達、輸送、製品の使用、廃棄など、自社の事業活動に関連するサプライチェーン全体の排出量(間接排出量) |
3.Scope3算定の意義
なぜScope3算定が必要なのか?
Scope3算定の必要性は、大きく分けて以下の3つの社会背景と、いくつかのメリットに集約できます。
3-1. 地球温暖化対策の国際的な潮流
地球温暖化は、世界的な共通課題であり、その対策は喫緊の課題です。
パリ協定をはじめとする国際的な枠組みの下、各国が温室効果ガス排出量削減目標を掲げ、企業にも積極的な取り組みが求められています。
Scope3算定は、サプライチェーン全体での排出量削減を促し、地球温暖化対策に貢献するための重要なステップとなります。
3-2. 投資家や金融機関のESG投資への関心の高まり
近年、投資家や金融機関は、企業の環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に関する取り組みを重視するESG投資を拡大しています。
企業のサステナビリティ情報、特に温室効果ガス排出量に関する情報は、投資判断における重要な要素となっており、Scope3算定・開示は、企業価値向上、資金調達の円滑化に繋がります。
3-3. サプライチェーン全体での脱炭素化の要請
脱炭素社会の実現には、サプライチェーン全体での排出量削減が不可欠です。
Scope3算定は、自社だけでなく、サプライチェーン全体の排出構造を可視化し、サプライヤーと連携した削減活動を推進するための基盤となります。
また、 サプライヤーに対してもScope3算定・削減を求める動きが加速しており、サプライチェーン全体での取り組みが競争力維持の鍵となります。
3 -4. SSBJなどの開示基準策定の動き
SSBJが企業のサステナビリティ情報開示基準を公表したことは、日本企業にとってScope3算定が義務化されることを意味します。
基準に準拠した情報開示は、企業の透明性向上、ステークホルダーからの信頼獲得に繋がり、企業価値向上に貢献します。
3 -5. 企業価値向上、競争力強化、リスク管理などのメリット
Scope3算定・開示に取り組むことで、企業は以下のようなメリットを享受できると考えます。
企業価値向上: ESG投資家からの評価向上、株価上昇、資金調達の円滑化
競争力強化: 脱炭素化を推進する企業としての差別化、サプライヤー選定における優位性
リスク管理: 気候変動関連リスクの低減、サプライチェーン強靭性強化
コスト削減: 省エネ、省資源による費用最適化
イノベーション創出: 脱炭素化技術・サービス開発、新たな事業機会の創出
4.Scope3算定で、川上にいる企業が気を付けるべきこと
川上企業とは?
Scope3における川上とは、一般的に、原材料・部品サプライヤー、エネルギーサプライヤーなど、自社の事業活動の上流に位置する企業を指します。具体的には、素材メーカー、部品メーカー、エネルギーサプライヤーなどが該当します。
★ Scope3算定における川上企業の課題と注意点 ★
上流部門にいる企業がScope3算定で気を付けるべきことは、主に以下の4点です。
4 -1. サプライヤーからのデータ収集の困難さ
Scope3算定において、サプライヤーからのデータ収集は非常に重要なプロセスですが、多くの企業にとって大きな課題となります。
特に、サプライヤーの数が多い場合や、中小企業などScope3算定に慣れていないサプライヤーが多い場合は、データ収集に多大な時間と労力がかかります。
サプライヤーへの協力要請、データ収集方法の標準化、サプライヤー支援プログラムの提供など、サプライヤーと連携したデータ収集体制の構築が重要となります。
4 -2. データの信頼性確保
サプライヤーから収集したデータの信頼性を確保することも重要です。
データの精度が低い場合、算定結果の信頼性も損なわれ、適切な削減対策を講じることが困難になります。
サプライヤーにデータの根拠となる資料の提出を求めたり、第三者によるデータ検証を導入するなど、データ品質を確保するための仕組みづくりが求められます。
4 -3. 算定範囲の特定
Scope3のカテゴリは15種類と多岐にわたります。
川上にいる企業は、自社の事業活動において、どのカテゴリが重要な排出量となるのかを適切に特定し、算定範囲を適切に設定する必要があります。
例えば、原材料サプライヤーであれば、「カテゴリ1:購入した製品・サービス」、「カテゴリ2:資本財」などが主な算定対象となります。
自社の事業特性を踏まえ、算定範囲の根拠を明確にすることが重要です。
4 -4. 業界特有の算定手法
業界によっては、Scope3算定に関する業界特有の算定手法が策定されている場合があります。業界団体などに確認し、業界手法が存在する場合は、それを使用することで、より現実的な算定が可能になります。
5.Scope3算定で、川下にいる企業が気を付けるべきこと
川下企業とは?
Scope3における下流とは、一般的に、製品・サービス消費者、小売業者など、自社の事業活動の下流に位置する企業を指します。具体的には、小売業、サービス業、製品メーカー(消費者向け製品)などが該当します。
Scope3算定における下流部門の課題と注意点
川下にいる企業がScope3算定で気を付けるべきことは、主に以下の4点です。
5 -1. 製品使用時や廃棄時の排出量算定の困難さ
川下、特に消費者向け製品を扱う企業にとって、製品使用時や廃棄時の排出量算定は大きな課題となります。
消費者の製品使用方法や廃棄方法は多様であり、排出量算定が困難になります。
製品の種類や消費者層を区分し、使用シナリオや廃棄シナリオを想定した上で、現実的な算定手法を選択する必要があります。
5 -2. 消費者行動の予測の不確実性
製品使用時排出量や廃棄時排出量は、消費者の行動に大きく左右されるため、予測の不確実性が高くなります。
消費者行動の変化や技術のイノベーションによって、排出量が大きく変動する可能性も考慮する必要があります。
過去のデータ分析や消費者アンケート調査などを通して、消費者行動をできる限り正確に予測し、算定手法に反映させることが重要です。
また、不確実性を考慮した上で、幅を持たせた算定結果を示すことも有効です。
5 -3. 多様な製品・サービスへの対応
川下、特に小売業やサービス業は、多種多様な製品・サービスを提供している場合が多く、それぞれに適切な算定手法を適用する必要があります。
製品・サービス の特性を踏まえ、カテゴリ分類や算定手法を適切に選択する必要があります。
5 -4. データ収集範囲の広さ
川下の企業は、消費者との接点が多く、データ収集範囲が広範囲に及ぶ可能性があります。
消費者からの直接的なデータ収集は困難なため、統計データや業界平均値などを使用して、効率的にデータ収集を行う手法を検討する必要があります。
6.Scope3算定で、全体的に気を付けるべきこと
Scope3算定は、川上企業、川下企業それぞれに特有の課題があるだけでなく、企業全体として気を付けるべき点も多いです。
ここでは、Scope3算定を着実に進めるために、全体的に気を付けるべき5つのポイントを解説します。
6 -1. 算定組織体制の構築
Scope3算定は、多くの部門にまたがる大規模な取り組みとなるため、効果的な組織体制の構築が不可欠です。
経営層のコミットメントの下、 算定目標、役割分担、責任所在などを明確にした組織体制を構築し、社内全体で協力して算定に取り組む体制を整備する必要があります。
6 -2. データ収集体制の整備
Scope3算定において、データ収集は最も多くの時間と労力がかかるプロセスの一つです。サプライヤーや消費者、社内各部門など、データ提供者との連携を強化し、継続的かつ効率的なデータ収集体制を整備する必要があります。
6 -3. 算定手法の選択
Scope3算定には、多くの手法が存在します。自社の事業特性やデータ準備度合いなどを踏まえ、現実的かつ根拠に基づいた算定手法を選択する必要があります。
環境省などが提供している算定手法ツールや、コンサルティング会社の支援サービスなどを使用しながら、自社に最適な手法を選択することが重要です。
6 -4. 継続的な算定と改善の重要性
Scope3算定は、一度算定して終わりではありません。毎年継続的に算定とモニタリングを行い、排出量の傾向を把握し、削減進捗を管理していくことが重要です。
また、算定手法やデータ品質を継続的に改善し、算定精度を向上させていくことも求められます。
6 -5. 情報開示の透明性と信頼性
Scope3算定結果は、ステークホルダーへの情報開示を通じて、企業の透明性を高めるために重要です。算定手法やデータソース などをオープンにし、第三者による検証を受けることで、情報開示の信頼性を向上させることが重要です。
7.Scope3算定の流れ
Scope3算定は、一般的に以下の5つのステップで進めます。
Step1:算定範囲の特定
まず、Scope3算定の対象とする範囲を特定します。Scope3カテゴリ(全15種類)の中から、自社の事業活動において重要な排出量となるカテゴリを特定します。
Step2:データ収集方法の検討
特定したカテゴリについて、どのようなデータを、どのように収集するか、方法を検討します。サプライヤーからのデータ提供を依頼するのか、統計データや業界平均値などを使用するのかなど、現実的な方法を選択します。
Step3:データ収集・集計
Step2で検討した方法に基づき、データ収集と集計を行います。サプライヤーへの協力要請や、社内各部門との連携を通じて、必要なデータを収集します。
Step4:算定・分析
収集したデータを用いて、Scope3排出量を算定します。算定ツールやコンサルティング会社の支援サービスを使用することも有効です。算定結果を分析し、排出量の多いカテゴリや削減優先順位の高いサプライヤーなどを特定します。
Step5:検証・情報開示
算定結果の妥当性を検証します。必要に応じて、第三者検証を受けることも検討します。検証後、算定結果をサステナビリティレポートやウェブサイト等で情報開示します。
8.算定に必要な期間
Scope3算定に必要な期間は、企業の規模、サプライチェーンの複雑さ、サプライヤーの数、データの準備度合いによって大きく変動します。
これは一例ですが、サプライヤーが50未満の場合で、各サプライヤーが早急に対応してくれた場合でも1カ年分の算定に半年~1年かかることもあります。
サプライヤーが多くなればなるほど、より多くの時間がかかることも予想されます。
Scope3算定期間を短縮するためには、以下のポイントに注意することが重要です。
算定目的を明確にする: 算定目標を明確にすることで、必要な算定精度や範囲が特定しやすくなり、効率的な算定が可能になります。
算定範囲を適切に特定する: 算定範囲を広げすぎると、データ収集に多くの時間がかかり、算定期間が長期化する可能性があります。自社の事業特性を踏まえ、算定範囲を適切に設定することが重要です。
9.Scope3算定にかかる費用
Scope3算定にかかる費用は、算定範囲、委託コンサルティング会社、使用ツールによって大きく変動してきますが、一般的には数百万円/カ年くらいの費用感かと思います。
9 -1.費用項目の内訳
Scope3算定にかかる費用は、主に以下の項目に分けられます。
人件費: 社内で算定作業を行う場合の人件費
コンサルティング費用: コンサルティング会社に算定支援を依頼する場合の費用
ツール導入費用: Scope3算定ツールを導入する場合の費用
第三者検証費用: 第三者検証を受ける場合の費用
9 -2.費用を抑えるためのポイント
Scope3算定費用を抑えるためには、以下のポイントに注意することが重要です。
自社で対応できる範囲を広げる: コンサルティング会社に全てを丸投げするのではなく、自社で対応できる範囲を広げることで、コンサルティング費用を削減できます。
段階的に算定範囲を拡大する: 最初から全てのScope3カテゴリを算定対象とするのではなく、まずは重要なカテゴリに絞って算定を開始し、段階的に範囲を拡大していくことで、初期費用を抑えることができます。
9 -3.費用対効果、投資効果を考える
Scope3算定には費用がかかりますが、企業価値向上、競争力強化、リスク管理など、多くのメリットが期待できます。
長期的な視点で見れば、Scope3算定は投資効果の高い取り組みと言えるでしょう。
10.おわりに
Scope3算定は、SSBJの開示基準対応において義務的な取り組みであり、サプライチェーン全体の脱炭素化を推進する上で不可欠です。
Scope3算定には困難な側面もありますが、算定の意義を適切に理解し、本記事で解説した注意点や流れを踏まえることで、着実に進めていくことができると思います。
わたしたち株式会社GreenGuardianでは、これまで大企業から中小企業にいたるまで多くの企業様のScope3算定支援を行ってまいりました。
算定経験が豊富なプロが、事前説明から実際の算定支援、算定後の出口戦略まで丁寧にサポートいたします。
Scope3算定をご検討の方、算定に関するお悩みをお持ちの方がいらっしゃいましたら、当社までお気軽にご相談ください。
また、LCA全般に関するご相談も受け付けております(初回1時間無料相談も実施中です)。

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