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コラム記事

企業がいま取り組むべきLCA(ライフサイクルアセスメント)とは。実務経験10年以上のLCAコンサルタントが、概要からメリット・注意点までをわかりやすく解説

こんにちは。

LCAコンサルタントの小野あかりです。


近年、地球温暖化や資源枯渇など、深刻化する地球環境問題に対する社会的関心が高まってきています。

これに伴い、企業には事業活動における環境負荷の低減が強く求められるようになっています。


私たちの日常生活の中にも、環境配慮型の設計がなされた製品が数多く登場しています。自動車、住宅、食品など、さまざまな分野の企業が環境負荷の低減に取り組んでいるのが現状です。

中には、環境配慮を製品のブランド価値に結び付け、企業価値の向上につなげている事例も見られます。

さらに、一部の国では環境配慮が製品販売の必須条件となっているなど、企業にとって環境に配慮した活動や製品の提供は、もはや事業運営の基本となってきているのが実情です。


では、どのようにして、あるいはなにも持って、

「環境に良い」と言っているのだろう?


どうしたら自社製品やサービスを

「環境に良い」と言えるのだろう?


という疑問を持った時に、LCA(ライフサイクルアセスメント)という手法は効果的な役割を果たしてくれます。


この記事では、

◆LCAとはなにか?

◆企業がLCAに取り組むメリットはどこにあるのか?

◆実際にLCAを実施する上での課題はなにか?


に関して、LCAコンサルタントの視点から解説をしていきたいと思います。


目次



 


1. ライフサイクルアセスメント(LCA)とはなにか?


ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、製品やサービスがそのライフサイクル全体(資源の採取から製造、流通、使用、廃棄まで)においてどのような環境影響を与えるかを定量的に評価する手法です。


例えば、、、

"スマートフォン"をLCAで評価する場合、

ライフサイクルとして下図のような工程が想定されます。


スマートフォンのライフサイクルアセスメント(LCA)
図1 スマートフォンのライフサイクル

その全ての工程において、どの程度

◆二酸化炭素(CO2)排出量が出ており、

◆水が消費・使用され、

◆土地や生態系へ影響を与えているのか etc...

というような、環境に与える影響(環境負荷)を数値化していく手法がLCAになります。

従ってLCAを活用することで、企業の活動や製品開発が本当にサステナブルなのか、という判断を行うことができます。

その意味で、LCAはサスティナビリティを推進していくための重要な手法になります。



1.1 ライフサイクルアセスメント(LCA)の歴史

 LCAの原型となっているのは、1969年にコカ・コーラ社が米国のミッドウエスト研究所に委託して実施した飲料容器を対象とした研究だと言われています。

これは、容器の違いによる天然資源の消費や、環境への排出を定量的に比較することによって、環境への負荷が最も少ない容器を決定しようとしたものです。

 1993年以降、国際標準化機構(ISO)では、環境管理に関する規格化作業が開始され、その中で LCA が環境に与える負荷及び影響を分析評価するのに適切な手法として位置づけられました。

 LCA手法がISOによって国際的な標準規格となったことで、さらに世界の関心を集めるようになり、これまでに多くの評価が実施されています。

日本の産業界においてもISOの規格化作業に伴い、1990年代からLCAを実施しようという機運が高まりました。1995年には「LCA日本フォーラム」という産官学が集うプラットフォームも設立されています。

 

近年では、

◆ CDPやTCFDを通した投資機関とのコミュニケーション

◆ グリーンボンド活用による非財務情報(環境負荷項目)の公開と改善要求

の流れから、環境意識の高い単独企業だけでなく取引企業へも環境負荷情報(主にCO2)と改善を要求する企業が増え始め、その流れが加速していきました。

その流れを受けて、従来の製品やサービスに限らず、イベントや組織、地域や国、世界といったより大きな単位にもLCA評価手法が活用されています。


 環境負荷(評価対象)とは、CO2だけを指すのではなく、CH4やNOx, エネルギーや水、金属や土地など多岐に渡ります。

CO2の算定に活用されることが多いですが、何を評価するかは目的の設定に依存します。

以下の節で、LCAの実施手順について簡単に解説をしていきます。



1.2 ライフサイクルアセスメント(LCA)の実施手順

 LCAはISO14040,14044によって規格化がされており、枠組みも説明されています。

ISO規格に準拠したLCA評価を行うためには、

◆ 目的および調査範囲の設定

◆ インベントリ分析

◆ 影響評価

◆ 解釈

を実施する必要があります。

得られた結果は報告書としてまとめられ、上記で紹介したような用途に応じて活用されていきます。

クリティカルレビューは必須ではなく、実施するかどうかは目的に依存します(図2)。

以下で、目的および調査範囲の設定、インベントリ分析の部分に関して簡単に概要をご説明していきます。


LCAの実施手順
図2 LCAの実施手順

目的及び調査範囲の設定:                            

目的の設定では、

◆ 意図する用途や調査をする為の理由、

◆ 伝達先、

◆ 比較主張において結果を用いるか等

を設定します。


調査範囲の設定では、

◆ LCAを実施する評価対象製品

◆ その機能

◆ 機能単位(例えば、お米1kgあたり、500mlのペットボトル1本あたり等)

◆ 評価(調査)範囲

◆ 前提条件やデータに関する情報

◆ クリティカルレビューするかどうか

等を明確に設定する必要があります。

以降の分析の詳細度はこの段階で決定されることから、重要な段階と言えます。


インベントリ分析:                           

インベントリ分析はライフサイクルの全体を通してのインプット及びアウトプットデータのまとめ,並びに定量化を行うLCA の段階です。

料理本やレシピをイメージすると分かりやすいかもしれません。

当然ながら料理本には、料理を作るのに必要な情報が載っています。

パンであれば、強力粉や水、砂糖やバター、塩やドライイーストなどがそれぞれどのくらいの数量、どの工程で必要かを紹介しています。


実際のLCAではこれらに加えて、電気や燃料、その他製品などの項目があり、これらを追加・整理するとインプットデータになります。

一方でアウトプットデータは結果として、パンが何グラムつくれたか、環境負荷(例えば、CO2)がどのくらい排出されたかといった情報を整理することで完成します。

インプット及びアウトプットデータの整理は、どの工程で必要になるのか、または発生したかといった情報を一緒にすることが非常に重要であり、それにより分析や考察、改善がしやすくなります。


              表1. インプットデータの例

インプットデータの例

影響評価(LCIA):                        

 影響評価は、ライフサイクル全体を通した潜在的な環境影響の大きさ及び重要度を理解し、かつ 評価することを目的としたLCA の段階です。(影響評価手法は複数提案されていますが、ここでは被害算定型環境影響評価手法を基に解説します。)


 影響評価は分類化、特性化、被害評価、正規化(重みづけ)、統合化といった流れがありますが、必須要素は特性化までで、以降は任意要素になります。


◆分類化

 分類化は、インベントリ分析で得られたCO2やCH4, NOxなどがどのような環境問題に影響を及ぼすか(インパクトカテゴリー)を関係付ける工程です。

上記であれば、地球温暖化に関係付けることができます。


◆特性化

 特性化は、それぞれの物質が各インパクトカテゴリーで、どの程度の影響を及ぼすのかを定量的に示す工程です。

例えば、地球温暖化であれば、インベントリ分析で把握したCO2やCH4, NOxの重量にそれぞれの地球温暖化係数(GWP)をかけることでそれぞれのCO2換算重量が得られます。最後にそれらを集計することで特性化(地球温暖化)が把握できるという訳です。

 

◆被害評価

 被害評価は、環境の変化を通じて受け得る被害量について評価する工程です。たとえば、日本が開発した影響評価手法のLIME(Life Cycle Impact Assessment Method based on Endpoint Modeling)では、人間健康や生物多様性、社会資産や一次生産を対象に被害量を集計しています。この集計には、疫学や生態学、数理生物学や毒性学、気象学などの自然科学的知見を取り入れています。

 

◆正規化

 正規化(重みづけ)は、これまで得られた結果(被害)をそのまま比較することができない問題を解決する為にある工程です。比較を可能にするためにそれぞれの寄与率を算定し、かけることで単一指標としています。

LIMEであれば、人間健康(DALY)や生物多様性(EINES)、社会資産(円)や一次生産(乾物ton(dry-t))は単位が異なる為、比較ができません。

しかし、正規化を実施することで単一指標(円)換算することができ、統合化が可能になります。前述の通り、被害評価までだとそれぞれの被害影響を比較することが出来ません。その為、「どういったアクションを優先すべきか?どこに着目するべきか?」といった迷いが生じ、意思決定することが困難な状況になりますが、統合化によって、比較が可能になると、どの環境負荷項目を優先的に改善する必要があるかがしっかりとした根拠として示すことが出来ます。


※LIMEは現在LIME3まで開発が行われている。地理的評価範囲は世界規模に改良された他、全面的なバージョンアップがなされた。


LIMEの概念図と評価対象範囲
図3 LIMEの概念図と評価対象範囲


解釈:                               

 インベントリ分析もしくは影響評価のいずれか,又はその両方から得られた知見をLCA の結論及び提言を得るために、設定した目的及び調査範囲に関して評価するLCA の段階。

つまり、解釈で得られたインベントリ分析や影響評価の結果から結論を導き、提言をまとめる段階です。重要な項目の特定、結果の確実性と信頼性の評価、結論及び提言を言及します。重要な項目の特定では、インベントリ分析や影響評価の結果から、寄与度の高いライフサイクル段階や原因を特定します。

 結果の確実性と信頼性の評価では、特定された重要な項目の信頼性を明確にするため、LCAの結果や用いたデータに関する点検を実施する必要があります。

結論及び提言は、LCAの結論を導き出し、分析の依頼者に向けて提言を行う。というものです。




クリティカルレビュー:                       

 報告書を基にLCA に関するISO規格の原則及び要求事項との間の整合性を確実にする為の工程です。レビュー文書、LCA 実施者のコメント及びレビュー実施者の提言への対応はLCA 報告書に含めなければなりません。

ただし、注意が必要なのはクリティカルレビューは報告書にある数値が必ずしも正しいことを保証するものではなく、以下を保証するものになります。


- LCAを実施するために用いた手法が規格(ISO14044)に合致している

- LCAを実施する為に用いた手法が科学的及び技術的に妥当である

- 使用したデータが調査の目的に照らして適切、かつ合理的である

- 解釈は、明らかになった限界および調査の目的を反映している

- 調査報告書は、透明性および整合性がある



 

2. ライフサイクルアセスメント(LCA)の有用性とイメージ

 LCAは、環境負荷が低い製品を開発する為の検討にしばしば用いられます。

LCAではライフサイクル全体を評価に含める必要がありますが、その理由は下図で説明できます。

下図は機能が同じ製品A製品BのCO2排出量を比較したものです。

図を見ていただくと一目瞭然化と思いますが、

◆ 製品生産までを評価した場合 → 製品Bの方がCO2が少ない 

◆ ライフサイクル全体を含めて評価した場合 →製品Aの方がCO2が少ない

という結論になりました。

 このようにLCAでは、全工程を含めて評価することによって製品の環境負荷の全容を正しく把握することができます。

また、製品によって、どの工程を重点的に改善しなければならないのかを結果から導き出すことが出来ます。

これらを活かして、より環境に配慮した製品・サービスを検討するための有用なデータを提供することができるという訳です。


LCAの有用性と評価結果のイメージ
図3 LCAの有用性と評価結果のイメージ

その他にも、企業がLCAに取り組むメリットはたくさんあります。

以下に一部抜粋してご紹介します。



2.1 企業がライフサイクルアセスメント(LCA)に取り組むメリット

  1. 環境影響の可視化 LCAは、製品やサービスが与える環境影響を定量的に可視化します。これにより、どの段階でどのような環境負荷が発生しているかを明確に把握できます。

  2. 環境パフォーマンスの比較 異なる製品やサービス、または同じ製品の異なるバージョンの環境パフォーマンス(CO2排出量が少ない製品・サービスはどちらか 等)を比較する際にLCAは有効です。これにより、環境に優れた選択肢を選ぶことができます。

  3. 規制遵守と市場競争力 多くの国や地域で環境規制が厳しくなる中、LCAを実施することで規制遵守を確実にし、市場での競争力を高めることができます。環境負荷の低減は企業のブランド価値を向上させる要因ともなります。

  4. 利害関係者への説明責任 LCAは、企業が環境に配慮した行動を取っていることを利害関係者(顧客、投資家、規制当局など)に説明するための有力なツールです。透明性の高い報告が信頼性を向上させます。


 特に最近では、欧州においてグリーン・ディール政策やグリーン・ウォッシュ規制などの動きも出ており、企業の環境対策に対するこれまで以上の正確な評価が求められています。

そういった意味では、LCAは算定方法にこだわることでかなり正確な評価結果を出すことができる強力なツールになります。

今後も、日本を含め世界全体で環境規制を厳しくする動きは加速していくと考えられますので、いざLCA評価結果を求められたときに焦ることのないよう、早め早めに対応していけると良いですね。



3. ライフサイクルアセスメント(LCA)を進めて行く上での課題

 メリットが沢山あるLCAですが、実際に実施する際には注意点がいくつかあります。今回は、特に注意が必要な項目を2つ挙げました。


LCAの実施には時間とコスト、ステークホルダーの協力が必要      

 当たり前の話ですが、ある程度、LCAのことを担当者は勉強しておく必要があるため、初期費用として教育コストがかかります。

専門家と一緒にやる場合はその限りではありませんが、それでもどういった情報が必要になるか、どのようにして、誰からデータを取得するのかといったことは把握しておく必要があります。

 また、データは最初から集約されていない場合が多い為、必要な情報を方々から集める為にどうしても時間がかかります。

特にサプライヤーに要請して情報を得る場合は、趣旨説明やお願い、先方マターの対応もあります。更にクリティカルレビューまで実施する場合はその期間も必要となるので、それを見越したスケジュールを組む必要があります。


データベースにない情報は作る必要がある               

 インベントリデータベースは有料・無料含めて複数ありますが、前提条件に合わせて見合ったものを活用することが望ましいです。

しかし、必ずしもデータベースにピッタリな係数がある訳ではありません。その場合は最も近いものを選ぶことになりますが、影響が大きいものや近しいものもない場合に関しては、独自に係数を作成する必要があります。しかしながら、専門知識がない場合はそういった対応は難しく、その結果として、環境性能が実態と乖離(過小または過大評価)されたものになることがあります。



属人化:高い専門性が必要                     

 簡単なLCAの計算自体はすぐに誰でもできる(数字は得られる)一方で、活用している係数(原単位)や影響評価係数、収集データなどを正しく理解しているか、それぞれの意味合いや特徴が把握できているかは専門知識を有するLCAコンサルタントでないとハードルが高いといえます。特に国や地域によって、求められている手法は異なります。

 それぞれのシーンで求められる対応をすることで海外でも反発なく情報のやりとりができるようになります。

 また、ISOに基づいたクリティカルレビューでは、そもそもLCAの経験と知識が十分にある人材を集めて実施しなくてはならないとあり、ある程度、属人化してしまうことが前提になっていることから仕方がない部分もあるといえるかもしれません。


  4. 最後に

 今回は、「企業がいま取り組むべきLCA(ライフサイクルアセスメント)とは。実務経験10年以上のLCAコンサルタントが、概要からメリットまでわかりやすく解説」というテーマで解説を行いました。

製品がどの程度環境に配慮したものなのか、企業の活動がどの程度環境に配慮したものなのか、を測る手段は多くあり、自動で簡単に数値化まで行えてしまうものもあります。

ただ、正しい手順や方法をもとにしたLCAの実施をすることで、製品やサービス、または企業全体のサステナビリティを高めてくれます。

 さらに、外部の専門知識を有するLCAコンサルタントを交えた議論やレビューを定期的に実施しながら、LCA結果に対しての透明性を担保していくことも、企業ブランディングに活かしていく上では非常に重要になってきます。

 当社では、既にある製品の環境評価、他社製品との比較、新製品開発に活用していくためのコンサルなど、多岐に渡ってLCAのコンサルティングサービスを行っております。

製品(企業)ブランディングにぜひ当社のLCAコンサルをご活用ください!

 

※当社にはLCA実務経験10年以上、かつ独自原単位開発者が在籍しておりますので、何かご不明点やご質問などありましたら、お気軽にお問い合わせください。


 

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