導入事例
セイコーエプソン株式会社
SROI評価により、
社会的な影響力を貨幣換算!
セイコーエプソン株式会社
林正明さま 柴田幸成さま
会社紹介
長野県諏訪市に本社を置く情報関連機器、精密機器を手掛ける電機メーカー。
インクジェットプリンターを始めとするプリンターや、プロジェクター、パソコン、スキャナーといった情報関連機器、水晶振動子(クォーツ)、半導体などの電子デバイス部品の製造、さらに産業用ロボットや小型射出成形機、分光ビジョンシステムなどの産業用機器の製造を手掛けている。
今回SROI評価を行ったのは、オフィス内で使用済のコピー用紙から新しいコピー用紙を再生できる機器「PaperLab」によって生み出される社会的効果である。PaperLabでは厚紙や色紙も作れるため、名刺やノートなどを生産できる。今回は、PaperLabを導入している企業の全面的な協力を得て、評価を行った。
SROIの測定に至った経緯
PaperLabは2017年から販売を開始している機器です。現在多くのお客様に「紙を通じた環境貢献、啓発」、「CSR」、「PaperLabによる障がい者の雇用促進」等を目的に利用いただいています。
お客様はPaperLabの持つこれらの価値をご理解いただいておりますが、同時に「その定量的価値を知りたい」、「費用対効果を見える化したい」というご要望を多くいただいておりました。
そんな時にプロジェクトの成果や製品導入効果を社会面への影響も含め数値的に評価できる「SROI」という方法があることを教えてもらったのがきっかけです。
ただしSROI評価に関しては弊社として知見や評価経験を持っていなかったので、この分野で多くの実績を上げていらっしゃる株式会社Green Guardian様のご協力を得て評価することになりました。
SROI(Social Return on Investment)とは
SROIは社会的インパクト評価の一手法である。
ビジネスの世界でよく使われる指標にROI(Return on Investment:投資利益率・投資対効果)がある。ROIは、投資した費用(インプット)から、どれくらいの利益や効果が得られるのかを示す指標だが、ROIでは売買できるものの価値は測ることができるが、それ以外の社会的価値や環境的価値を測ることはできない。
それに対してSROIは、売買されていないものも含めた社会、環境、経済の成果を測定するための枠組みである。社会的価値や環境的価値を含めて総合的に評価することで、不平等や環境悪化を減らし、ウェルビーイング(幸福)を向上させる助けとなる
SROIは次の計算式により算出される:SROI=アウトカム(成果)÷インプット(投資した費用)
社会的インパクト評価の中で、SROIの大きな特徴は、社会的な価値を貨幣換算することだ。金額という理解しやすい指標を用いてSROI値を算出することで、直感的に効果を理解しやすい。
PaperLabは、「使用済みの紙から、新たに紙を作り出す」技術です。
PaperLabによって作られた再生紙は、名刺やノートなど、さまざまなものに加工できます。そして紙はコミュニケーションの手段です。
PaperLabの再生紙で作られた名刺に「PaperLabによって作られている」ことを書いておけば、名刺を渡す時に、「社内産」の再生紙であることを話題にできます。こうした会話は、渡す人と渡された人の環境意識を高めるきっかけにもなります。
名刺やノートを渡すことを通してコミュニケーションが生み出すことができることから、PaperLabの社会的な意味は大きいと以前から考えていました。
(図1)アップグレードリサイクル品(プラネタリウム)
PaperLabを購入する企業の方は、PaperLabが生み出す社会的効果も重視しますが、費用対効果も気にされます。
SROIを用いて「PaperLabによって生み出される社会的意義」を見える化すれば、すでに導入されているお客様だけではなく、これから導入を考えている企業にも理解してもらいやすいだろうと思いました。
依頼した所感、効果、活用
SROI評価を実施してみて、まず「面白い」と感じました。
その理由の一つは、「間接的な効果まで測定できる」ことです。今回は、ステークホルダーへのヒヤリングによって「障がいのある方を雇用することによって、障がい者の方の家族の自由時間も増える」という想定していなかった社会的効果があることが確認できました(図2)。図2の上方の「環境負荷の削減」から「環境貢献アピールの価値が生じる」というつながりもそうですが、重要な効果であれば、間接的な効果まで含めて評価できることは、社会的影響を俯瞰して考える上で重要だと思いました。
また、このときの評価では、セキュリティ意識や環境意識の向上の社会的価値を、講演の費用で代替しました。「PaperLabで使用済みの用紙を処理するために、社員が機密書類を分別して出すようになった。分別により、社内の機密情報に対するセキュリティ意識が大きく高まった」という声がヒヤリングで確認されたことから、「それは、社内でセキュリティの専門家に講演を頼んだ際の費用と同じ価値があるだろう」と考えたのですが、「そういう見方ができる」ということが面白かったです。こうした社会的効果は、これまで見える化できなかったので、評価できてよかったです。
(図2)PaperLabの社会的インパクト
SROI評価は社内でも、反響が大きかったのです。その理由の一つは、「活動を見える化できること」への期待ではないかと思います。さらに、見える化した結果が、貨幣換算した価値で示されることで、馴染みのある経済指標のような、わかりやすさがあることも反響が大きかった理由でしょう。SROI評価の結果が数字的によくなかった部分についても、「この部分をしっかりアピールすればもっと効果的にPaperLabを利用してもらえる」といった改善に用いることができることも魅力です。
今後の目標や展望
PaperLabのSROI評価は、今後もっと突き詰めていくことで、もっと面白い結果が出る可能性があると考えています。今回のヒヤリングからはまだ見えていない波及的な影響がまだあるかもしれません。例えば、ヒヤリングを行うステークホルダーの範囲をもう少し広げることによって、今回評価できなかった「社員のモチベーションの増加が、生産性にどのようにつながるのか」なども、含めることができるのではないかと思っています。
さらに「効果があるはずなのに数値化できない」ものもありました。例えば、企業の評価があがることによって、株価への影響があるかもしれませんが、明確なエビデンスがないので評価に含めることはできませんでした。こうした現時点で数値化できない効果を「見える化」する方法を考えることで、評価できる範囲や内容が広がっていくことが楽しみです。